福島第一原発 緊急事態 大気放出に係る事故解析

Language: English / Japanese

概要

本件は 2011年3月12日 に発生した福島原子力発電所の事故による、 放射性物質の拡散予測シミュレーションです。

先に公開をいたしました ヨウ素131 の「地表付近 大気中濃度分布[Bq/m3]」の計算領域を関東全域を含むように拡大し、 不確実性の大きかった降水について、計算領域内のアメダスデータを基に降水量を見積もりました。

以上のように、現状手に入る限られた公開情報をもとに 計算条件に対して弊社が独自にいくつもの仮定を置いて計算したものです。 最善を尽くしておりますが、仮定に基づく計算結果であり精度には限界があります。 冷静に受け止めていただけますようお願いいたします。

今後、追加の情報が入手できたら結果の見直しも随時行っていきます。

弊社リソースに限りがあるため、本結果に対する個別のお問い合わせにはお答えいたしかねます。

計算条件

表.1 計算条件
項目内容出典
モデル気象モデル:RAMS, 粒子輸送モデル:HYPACTATMET
計算期間2011-03-12~2011-04-07
計算範囲福島第一原子力発電所を含む600km四方(図. 1)
水平方向格子Grid1:600×600[km]、10kmメッシュ
鉛直方向格子σ-z座標、海抜20kmまで、30格子
放出放射性物質ヨウ素131
放出率[Bq/s]原子力安全委員会が見積もった放出量をベースとして仮定*1
放出高さ通常:30m, 爆発時:30m~200m報道等
減衰プロセス放射性崩壊による物理減衰、乾性沈着並びに降水による湿性沈着
乾性沈着速度0.01m/s
洗浄係数パラメータα1.2×10-4
洗浄係数パラメータβ0.8
放出粒子数2000万程度
入力気象データMSM 等気圧面データ, アメダス降水量*2気象庁
地形データ50mメッシュ数値地図国土地理院

*1 現状では正確な放出量がわかっておりません。 正門における線量率に係数を掛けて放出量比を見積もりました(図. 2)。
*2 気象モデルの降水の再現性が悪かったため、計算領域内のアメダスデータから降水マップを作成して適用しています。

図.1 計算領域
計算領域
図.2 仮定した放出量の時系列
仮定した放出量の時系列

今後手に入った情報も随時取り込んでいくことで、 シミュレーションの精度を高めていく予定です。

計算結果

表.2 シミュレーション結果
年月日時地表付近 大気中濃度
2011/03/12 10:00:00-24:00広域
2011/03/13 0:00:00-24:00広域
2011/03/14 0:00:00-24:00広域
2011/03/15 0:00:00-24:00広域
2011/03/16 0:00:00-24:00広域
2011/03/17 0:00:00-24:00広域
2011/03/18 0:00:00-24:00広域
2011/03/19 0:00:00-24:00広域
2011/03/20 0:00:00-24:00広域
2011/03/21 0:00:00-24:00広域
2011/03/22 0:00:00-24:00広域
2011/03/23 0:00:00-24:00広域
2011/03/24 0:00:00-24:00広域
2011/03/25 0:00:00-24:00広域
2011/03/26 0:00:00-24:00広域
2011/03/27 0:00:00-24:00広域
2011/03/28 0:00:00-24:00広域
2011/03/29 0:00:00-24:00広域
2011/03/30 0:00:00-24:00広域
2011/03/31 0:00:00-24:00広域
2011/04/01 0:00:00-24:00広域
2011/04/02 0:00:00-24:00広域
2011/04/03 0:00:00-24:00広域
2011/04/04 0:00:00-24:00広域
2011/04/05 0:00:00-24:00広域
2011/04/06 0:00:00-24:00広域
2011/04/07 0:00:00-09:00広域

参考

福島第1原子力発電所から放出された放射性核物質(本シミュレーションでは放出された全てがヨウ素131と設定)は、大気に乗って移動します。大気とは、地球を取り囲む気体のことですが、私たちは大気を「風」で感じることができますので、大気の動き=風と考えてください。ここでは、放射性物質が風にのって移動する間にどのようなことが起きるのか、また、放射性物質を含む大気に取り囲まれた場合に人がどのような被ばくを受けるのかについて説明します。

大気中の放射性物質濃度

大気中に含まれる放射性物質の量は、ある量の大気中にどれだけの放射性物質が含まれているのかを表す「大気中の放射性物質濃度」で示します。「大気中濃度」と略して言うこともあります。たとえば1m3(縦横高さが全て1mの立方体の体積)の大気中に1Bqの放射能量がある場合、その大気中の放射性物質濃度は1(Bq/m3)であると定義します。

放射性物質が大気により移動する間に起きること

移動の間に、大気中の放射性物質の濃度は次に示す現象により小さくなります。その度合いは、放射性物質により異なります。

上記の現象により大気中の放射性物質の濃度が小さくなる一方で、ここに示す図の評価期間中、福島第1原子力発電所からは、時折、放射性物質が放出されて、大気中に放射性物質が追加されました。

ここに示す図は、出来得る限り信頼性の高い気象データ(風向きと風の強さ、天候)に基づいたシミュレーション(過去に起こったことを推定する計算)の結果です。この図や、特に動画から、時々刻々と大気中の放射性物質濃度が変化し、濃度の分布が出現する位置も落ち着くことなく移動していることが分かります。つまり、放射性物質が風に乗って自分の周りに届いている時もあったということになります。

なお、上で書いたように、放射性物質は大気に乗って移動しながら、地表や建物などに付着したり、雨などで地面へ落ちたりしています。したがって、放射性物質を含む大気が通過した場所は、量の違いは様々ですが、人の周囲にある全てのものに付きます。そのようにして付着した放射性物質は、そこに留まったり、あるいは、風で飛んだり、雨で流されたりしながら、物理学的半減期により時間とともに減っていきます。どの程度その場に留まったり、飛んだり、あるいは、流されたりするかは、放射性物質によって異なります。

大気中にある放射性物質濃度から推定できること

周囲に放射性核種を含む空気があると、その空気中にいる人は被ばくします。報道などで、「放射性物質(放射能)で被ばくする」というような言葉を耳にしたことと思います。「被ばく」とは、放射性物質から発生する放射線を受けることです。ここでは、人がどのように被ばくするのかについて、例を示します。

被ばくには、「外部被ばく」と「内部被ばく」の2つの形態があります。「外部被ばく」は人の周囲にある、たとえば空気中にある放射性物質や、地面に沈着した放射性物質から発生する放射線を身体の外側から受けることです。また、「内部被ばく」は、身体の内部に取り込まれた放射性物質から発生する放射線を身体の内側から受けることです。内部被ばくについては、呼吸で(鼻から)体内に取り込む場合(吸入による内部被ばく)と、主に飲食で(口から)体内に取り込む場合(経口摂取による内部被ばく)を分けて考えます。

ここでは、人が、放射性物質を含む大気にすっぽりと覆われた状態を考えます(この状態を「サブマージョン」と呼びます)。大気には、濃度1Bq/m3のヨウ素131があるものとします。外部被ばくについては、人の周囲の空気中に含まれる放射性物質から発生する放射線によるものを、内部被ばくについては、呼吸(鼻)から体内に取り込む場合について示します。

サブマージョンの場合に人が受ける外部被ばく線量を推定します。この推定では、サブマージョンに対する被ばく線量換算係数を使用します。この被ばく線量換算係数は、放射性核種ごとに決められています。ここでは、ヨウ素131に対する1.82×10-14(Sv/s per Bq/m3※1を使用します。この換算係数の値は、「周囲の大気中にあるヨウ素131の濃度が1Bq/m3の場合、人は、1秒あたり1.82×10-14(Sv)被ばくする」ことを意味します。「Sv(シーベルト)」は、放射性物質からの放射線を浴びた生体の被ばくの大きさを示す単位です。報道でよく耳にする単位である「マイクロシーベルト毎時(μSv/時)」に換算すると、6.552×10-5(μSv/時)となります。

ここでは、呼吸により体内に取り込んだ濃度1Bq/m3のヨウ素131による内部被ばく線量を推定します。
呼吸量は人により異なりますが、ここでは、2.22×107(cm3/d)※2 とします。また、ヨウ素131の成人の吸入に対する内部被ばく線量係数は7.4×10-9(Sv/Bq)※3であることから、成人が、濃度1Bq/cm3のヨウ素131の中で1時間呼吸した場合の内部被ばく線量は、6.85×10-3(μSv/時)となります※4
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※1:"EXTERNAL EXPOSURE TO RADIONUCLIDES IN AIR, WATER, AND SOIL.", FEDERAL GUIDANCE REPORT NO.12,EPA-402-R-93-081 (1993)
※2:「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に対する評価指針」昭和51年9月28日 原子力委員会決定 一部改訂平成13年3月29日 原子力安全委員会
※3:ICRP Publication 72
※4:内部被ばく線量(μSv/時)=1(Bq/m3)× 106(m3/cm3)×2.22×107(cm3/d) ×1/24(d/h) ×7.4×10-9(Sv/Bq)×10-6(μSv/Sv)

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